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2018. 09. 21
「美術の窓」田邊会長の連載 第12回
「美術の窓」vol.421 2018年10月号 P62〜P63

矛と盾

連載 第12回 心の帰る場所
 
 大正6年(1917)に竣工、開館した横浜市開港記念会館。その時計塔はジャックと呼ばれて、神奈川県庁(キング)、横浜税関(クィーン)と共に、横浜三塔として親しまれている、横浜の街のシンボルの一つである。その象徴的な時計塔にフォーカスして描いた今作。石材装飾などの建築意匠も大胆にデフォルメされ、複雑な動きを見せる線描が画面を踊る。ジェルメディウムを混ぜたような質感と独特な固さがあるのが目を引く。実に画家らしい、深みのある赤を基調として描かれており、塔の確かな存在感を感じさせている。
 目まぐるしく姿を変える横浜の街。そこに100年もの間存在し続けている塔だ。街が変わっても、人が変わっても、変わらないでいつまでもそこにある、揺るぎのない安心感がある。画家の描いたこの塔もまさに、街を、人を、そっと見守っているかのようだ。街を愛する人々にとってそれはいわば心の帰る場所といえるかもしれない。

関連サイト:
田邊哲人 作品集