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2018. 07. 25
「美術の窓」田邊会長の連載 第10回
「美術の窓」vol.419 2018年8月号 P64〜P65

矛と盾

連載 第10回 翡翠
 
 赤と青の対比が印象的な、ややマット調の色面に描かれた一羽のかわせみ。水辺に生息し、飛ぶ宝石とも称される美しい鳥である。鮮やかなブルーの色彩と丸っこい身体のフォルム、真っ直ぐ前に伸びる嘴。削ぎ落とされて、洗練されたその姿形はさながら幻影のようで不思議な存在感を示す。清流の近くを棲み処とするこの鳥に、自然を護る精霊のイメージを引き寄せている。
 下層に塗られ、かわせみの輪郭を幽かになぞるように現れる色は、いわゆるひすい色である。作り物でない、自然の中にある、色彩の持つ輝き。中国ではひすいの石の名の由来はこの鳥の羽の色とされ、日本では翡翠の字に「ひすい」「かわせみ」の二通りの読み方を当てる。ひすいの石は古代には勾玉の材料に用いられたように、その煌めきはどこか霊妙な趣を湛える。今作ではそうしたイメージを具えた色彩が、かわせみの存在を浮かび上がらせる。かわせみに内在する聖性を顕現させるように、宝珠が如く光り輝いている。

関連サイト:
田邊哲人 作品集